米津玄師 『diorama』 (2012)

 

現在では日本を代表するミュージシャンのひとりとなった米津さんの1stフルアルバム。

ハチ名義での活動のなかで、『マトリョシカ』や『パンダヒーロー』、『結ンデ開イテ羅刹と骸』など多数のヒット曲を放ち不動の地位を築いた果てに「初音ミクの隠れ蓑にはなりたくない」(HMVでのインタビューより)との思いから制作されたのが今作で、アートワーク、歌唱、そして演奏も含めた楽曲制作(なんとすべて新曲!)を一手に手掛けているという、1stにして並々ならぬ労力が籠められた内容となっています。

こと楽曲面においては、良い意味でチープな音像のギターロックサウンドがハチ楽曲と地続きにありながらも、それらと比べてどこか地に足着いたような落ち着きがあるため、名義が違うことでの差別化の意識がしっかりあることを感じられる...とした上で、そのなかでも圧倒的に強く感じられるのが紡ぐメロディーの美しさ。これは『vivi』や『恋と病熱』といったセンチメンタルな楽曲にかぎったことではなく、ヒップホップ的なノリの『駄菓子屋商売』、オルタナティブな『Black Sheep』など、今作収録のありとあらゆる楽曲で感じられるものです。

こういった楽曲群にひとつのコンセプトを与えてアートワークともにコンパイルしているものだから最早デビューアルバムとは思えないほどの完成度だと感じるほどで本人もかなりの手ごたえを感じていたよう(それにしてもハタチそこそこでこれを作る才能たるや...)。

次作はバンドメンバーをレコーディングに招き、他者の手が入るなかでの制作を行うようになるため、今作はある意味で、ハチ時代からひとりきりで積み上げてきたものの集大成的な内容。それゆえに、のちの作品とは毛色がすこし違っているという感じもありますが、とはいえ普遍的なメロディーが鳴っていることで色褪せない良さがあると思っています。

 

favorite→『vivi』 / 『恋と病熱』 / 『乾涸びたバスひとつ』

KEYTALK 『HOT!』 (2015)

 

代表曲『MONSTER DANCE』を収録した3rdアルバム。

バンアパUNCHAIN仕込みのクールなダンスビートと人懐っこいポップさを併せ持つというインディーズ時代からのサウンドの延長線上にありながらも、よりライブハウスらしい熱気が強く籠められている...というのが前作『OVERTONE』でしたが、今作はそこから一気にステップアップしライブハウスだけに留まらないスケールの大きさを感じさせるような内容となりました。

そういうわけで、振付が強烈な賛否を巻き起こしたシングル曲『MOSTER DANCE』をはじめとする1曲1曲が(バンド演奏を前提とした上での)ポップソングとして強力な個性を持っている...というのが今作なのですが、なかでもリード曲である『YURAMEKI SUMMER』はMV含めこれまでのKEYTALKのイメージを拡張(ともすれば刷新)するような仕上がりで、サザンやORANGE RANGEの音楽に含まれるようなエッセンスをKEYTALK流に昇華したようなキラーチューンになっています。当時言われまくっていた「KEYTALKは変わった」というのをもっとも感じられるのは、音源単位だと『MONSTER DANCE』よりもこちらかなという感じすらもあるほど。

こういった、より開けたムードの内容になったのは年内に控えていた武道館でのライブまで見据えてのことだったと思うのですが、武道館公演の成功や翌年以降のフェスにおける大活躍も含めて、今作での狙いはばっちりハマったというところは異論の挟みようがまったくないだろうというところです。ただ、今作以降のバンドの活動とか、それに対する反応を見ていると、ある意味で功罪相半ばする、というのもあったりするのかな、なんて思わなくもなかったりするところも...。良くも悪くもターニングポイントと言いますか...。

とはいえ、脂の乗り切った時期に、より大きな舞台へという目標を掲げて制作されたという背景もあって内容の充実っぷりというのはまさに白眉。文句なしの最重要作であると思います。

 

favorite→『Human Feedback』 / 『FLAVOR FLAVOR』 / 『バイバイアイミスユー』

UVERworld 『BUGRIGHT』 (2007)

 

いずれも強力なタイアップがついた(『恋するハニカミ!』のテーマソングは何とも言い難いですが...)ことで注目を集めたシングル3曲を含む2ndフルアルバム。

インディーズ時代の楽曲も多く収録されてミクスチャーロックサウンドというカラーも強かった1stフルアルバム『Timeless』の路線を踏襲しつつも、あくまでも歌モノとしてのメロディーの強度の高さが印象的なのが今作『BUGRIGHT』です。『SHAMROCK』、『君の好きなうた』のような、当時のティーンに刺さるような楽曲が連続してヒットしたことによる影響もあったのでしょう、UVERworld(以下、UVER)のディスコグラフィーのなかでももっともキャッチーで最大公約数的な仕上がりになっており、正直現在の彼らからすると若干距離もある雰囲気かな...というところもあったり。

とはいえ、パーソナリティを強く打ち出していく作詞のスタイルに関しては現在と変わらず。当時のTAKUYA∞座右の銘を冠した『Live everyday as if it were the last day』、尊敬する人の言葉をサビの歌詞にそのまま取り入れた『Colors of the Heart』、FC名にもなった『LIFEsize』など......現在のTAKUYA∞、ひいてはUVERの姿勢にまでそのまま繋がっていくという点も随所に見られて、この頃から地続きなままに今もバンドが続いていっているというところもしっかり感じられます。こういった部分は1stでも見られたところではありましたが、よりわかりやすく強く、といった様子です。

今作を境に、ロックバンドではありながらもJ-POPの範疇にちゃんと収まるような音作りで暫くのあいだUVERは活動を重ねていくことになるのですが、そういった路線に入っていくきっかけとなったのも納得というくらいに、実際のところ圧倒的な取っつきやすさを持っているアルバムである(先に書いた「現在の彼らからすると距離もある」というのも踏まえた上で)と思います。個人的にもリアルタイムで聴いた今作の印象というのがあまりにも強かったために、後に「男祭り」などに見られる、熱いUVERのライブというのがイメージと大分乖離していると思ったくらい(なんなら、今の20代後半~30代の人は大体そうなんじゃないかな...)。

リリースからかなりの時間が経っていることもありUVERのファンのなかでも世代によっては受け取られ方が違う内容だとは思いますが、当時のJ-POPシーンを彩った名盤であるというのは間違いないと思います。

 

favorite→『Colors of the Heart』 / 『Live everyday as if it were the last day』 / 『LIFEsize』

04 Limited Sazabys 『monolith』 (2014)

 

約9か月ぶりにリリースされた3rdミニアルバム。

前作『sonor』ではバンドの音楽性が一歩前進したということが感じられたのですが、今作ではそこからさらに大胆に殻を破り、04 Limited Sazabys(以下、フォーリミ)にとってエポックメイキングな作品となりました

パンクと言えば英詞ということもあったのでしょう、フォーリミはこれまで殆ど日本語を使ってこなかったのですが、『Now here, No Where』で感じたであろう手ごたえを糧に、今作ではほとんどの楽曲が日本語詞になっています。これによりGENくんのポップな言語感覚が強く感じられるのですが、その中でも素晴らしいのが『monolith』。先述の『Now here, Now where』の歌詞とも連なる、マイナスからプラスへ向かうような強い意志を持った歌詞がバンドにとっても金字塔レベルのものです。

そして、そんな歌詞に引っ張られるように、メロディーやアレンジもより圧倒的なポップネスを孕みはじめ、曲によってはもはやパンクという枠組みすら超えるようなキャッチーさに到達。とくに『nem...』や『Chicken race』に見られるダンサブルなビートと超キャッチーなメロディーの組み合わせなんかは当時盛り上がっていた邦ロックシーンとも共鳴していくようなものです。

そうやってジャンルのボーダーすらも越えることを可能にしたGENくんの声の訴求力の高さたるや、というところなのですが、とはいえ、フォーリミはあくまでもパンクバンド。そうやってキャッチーになりつつも、しっかりパンクロック、またメロコアサウンドが根本にあるということをしっかり感じさせる絶妙なバランス感覚が今作の魅力であると思います。

この時点でフォーリミの基本路線は既に完成しているというのがあまりにスゴい、そんな初期の名盤です。

 

favorite→『monolith』 / 『Chicken race』 / 『hello』

岸田教団&THE明星ロケッツ 『セブンスワールド』 (2012)

 

岸田教団&THE明星ロケッツ(以下、岸田教団)名義では、『LITERAL WORLD』以来2作目となる、オリジナル曲のみを収録したアルバム。

岸田教団の音楽性というのは、メジャーであっても同人であっても、またオリジナルであっても東方アレンジであっても、大きく変わることはない太い一本筋を持ったオルタナティブギターロックスタイルなのですが、今作もそれでありながらいつになくエモーショナルかつアッパーな仕上がりとなっています。

同人時代からの盟友イガラシさん(ヒトリエ)が提供した『群青』にはじまり、性急なビートが強力な『CircleEnd』と『セブンスワールド』、むきだしの感情がこめられた『Colorful』......と、実質のアルバム最終曲である『11月』に辿り着くまで、ひたすらに前のめりに突っ込んでいくような内容岸田教団でここまで振り切ったものというのは他にないように思うのですが、wowakaさんが亡くなったことが発表された日に岸田さんが「セブンスワールド作るときにかなり影響受けたんだよ、、、」と明かしており、今作はwowakaさんの楽曲の影響を受けているようです。そう言われるとたしかに、共通する部分があるなあと合点がいくところもありますね(このことから当時のインターネット音楽シーンにおけるwowakaさんの存在感というのがあまりに圧倒的であったということが改めて感じられるというところもあったり)。

とはいえ、そう言われて初めてたしかにとようやく思うほどにこの上なくしっかりと岸田教団でしかない音としてアウトプットされているため、リファレンスをひとつの要素として昇華してしまえるほどの岸田教団のサウンドの個性の強さというのを何より思い知るというところです。

なんにせよ、岸田教団のディスコグラフィーでも最大級の熱量を持ったアルバムで、まず薦めるならコレ!なんて言いたいくらいに良い内容になっていると思います。

 

favorite→『群青』 / 『CircleEnd』 / 『Rewriter』

B'z 『The 7th Blues』 (1994)

 

ミリオンヒットシングル『Don't Leave Me』を収録した7thフルアルバム。

渚園で開催され2日間で10万人を動員するという大成功を収めた前年の野外ライブを(世間のイメージにおける)ポップグループB'zとしてのひとつの区切りとし、次なるステップアップのための一手として放ったのが今作『The 7th Blues』です。『裸足の女神』、『愛のままにわがままに 僕は君だけを傷つけない』という2枚のメガヒットシングルを容赦なく未収録とした上で、ディスク2枚にわたって重厚かつ生々しいロックサウンドを展開しているこの内容には、B'zがロックバンドであるということを改めて声高に宣言しているということが如実に感じられます

海外のロックバンドへの憧憬が遠慮なく炸裂しまくるサウンドには、B'zのふたりを含む制作チームがひたすら純粋に楽しんでやっているというのがつよく感じられるのですが、そうは言ってもこれを商業作品として出すということに関して躊躇いはなかったんだろうかと思うくらいに、言ってみれば攻めた内容です。リリース後に行われたツアーの内容やビジュアルの変貌も含めて、最早パブリックイメージを粉砕する勢い

とはいえ、いきなり非キャッチーに変わり果ててすべてを置き去りにしたというわけでは勿論なく、とくにディスク1には従来のB'zらしいわかりやすくポップな瞬間も多く見られ、前作『RUN』としっかり地続きになっています。このあたりには彼らが商業音楽家として培ってきたすぐれたバランス感覚を感じられるというところがあったり。

そういうことで、2枚組の今作において真に物議を醸したであろうはディスク2。何のバージョン表記もされていないままでブルースに変貌した『LADY NAVIGATION』やB'z史に残る珍曲『もうかりまっか』を始めとして、リファレンスが明らか過ぎる『Sweet Lil' Devil』、『farewell song』など、一切希釈していないロックの原液のような内容です。B'zがこれからロックバンドとしてやっていくために一度ルーツを開示するという必要な作業だったと思うのですが、それにしたって濃い。ある意味で若さゆえという感じすらありますね。

後には本人たちも「暗黒時代」と称している時期にリリースされたアルバムですが、じつはB'zにとってターニングポイントにあたる重要作。長尺のリリースツアーを含めて、今作で得られたロックバンドとしての手ごたえは、次作以降連綿と続いていくB'zのロックサウンドの礎になっています。

 

favorite→『LOVE IS DEAD』 / 『MY SAD LOVE』 / 『Sweet Lil' Devil』 / 『JAP THE RIPPER』

ヒトリエ 『4』 (2020)

 

ヒトリエ初となるベストアルバム。

バンドの絶対的核であったwowakaさんを失うという耐え難い出来事が起きながらも、それでも歩みを止めずひたすらにライブ出演に勤しんできたヒトリエでしたが、ここで4人時代のヒトリエを一度統括するという目的の元、ベスト盤をリリース。これが今作『4』です。

これまでリリースしてきたCDからシングル曲やリード曲を中心にして満遍なく選曲がされた上で時系列で並べられているという、バンドのアンサンブルの進化と深化の過程がまさに現れている内容で、ヒトリエ知名度と注目度が急激に高まったこのタイミングにおいてはこの上ないものであったと思います。

それでいて、ローリンガール』のセルフカバー音源や、COUNTDOWN JAPAN 18/19でのライブ映像が収録されているために既存ファンにとっても手に取らない理由がなかったことで、wowakaさんが逝去直後に大きく売り上げを伸ばした『HOWLS』に次ぐ、好セールスを叩きだすこととなりました。

ただ、ヒット自体はしたものの、流行り病によって社会が混迷を極めていたタイミングのリリースであったということがあり、発売そのものの延期や今作にまつわるバンド史上最大規模のリリースツアー(EX THEATER ROPPONGIでの2デイズ公演を含む)が延期になった末に全公演中止という度々の憂き目に遭うという出来事も。ここで何事もなければ、ヒトリエは2024年現在もっと大きなバンドになっていたのかもしれない...なんて思うくらいにはこのベストアルバムリリース時期は方々から求められまくっていたような気がします。この辺の様子に関しては、思うところもありましたがここでは割愛。

今作については、リリース当時、ベスト盤を出す意味と意義がちゃんとあると理解していながらも肯定的になれなかったのを覚えています。4人体制時代のヒトリエの曲が収録されているアルバムなのにwowakaさんの手が入っていない(それは仕方ないことなのですが...)こととか、そもそもwowakaさんとヒトリエの歩みって1枚や2枚で纏め切れるものなのか?なんてことが引っかかったりして。それに『ルームシック・ガールズエスケープ』と『IKI』、『ai/SOlate』、『HOWLS』あたりは、かいつまむよりもアルバム単位で聴いた方がずっと伝わるはずだと思うところもあったり...。

さすがに今となっては、肯定とかなんとかそういう観点でどうこう思うことはないのですが、先に書いたようにオリジナルアルバムへの思い入れがありすぎるために、実際今作を聴くことがあるかと言うと...。ただライブ映像は未だに観ます。これがあったから、ヒトリエを好きになったんだと、何度観ても新鮮に思える映像で最高です

 

favorite→『ローリンガール 2016.2.18 at 下北沢GARDEN』