ヒトリエ 『PHARMACY』 (2022)

 

『3分29秒』、『風、花』というアニメタイアップ曲を収録した6枚目のフルアルバム。

楽曲自体はこれまでのヒトリエとまったく違うものの、根底に流れるグルーブがどうしようもなくwowakaさんと積み上げてきたヒトリエのそれと地続きであることを感じさせるのが前作『REAMP』でしたが、それに続く今作はそこから一歩音楽性を発展させて3人体制のヒトリエの可能性を試すような作品となりました。

テクノライクなループ感とバンドの生々しいグルーブが同居した『Flashback, Francesca』、インパクトしかない超絶縦ノリロックチューン『ゲノゲノゲ』、バンド結成から10年の歴史のなかでももっともポップソング的な『風、花』......という立ち上がりからして、これまでのヒトリエではなかったような、振り切ったノリを持った楽曲たち

この、音楽的により自由になったということを強く感じさせる様子からは、『REAMP』のリリースツアー以降、この3人でなら何をやってもちゃんとヒトリエの音になるという手ごたえを掴んだんじゃないだろうか、ということと、3人になってからの活動も長くなってきたところで気負いすぎず制作に臨めたんじゃないだろうか、ということが、(あくまでも想像でしかないですが)伺えるというところ。ナマで演奏されるとき、一体どうなるんだろう?と感じるところまで含めて、非常に刺激的な内容です。

とはいえ、序盤にミディアムテンポの楽曲が多いのは事実。もう落ち着いてしまったのかななんてちょっと思ってしまうかもしれないというくらいなのですが、そこで期待を裏切らず炸裂するのが『Flight Simulator』と『3分29秒』という、まさにヒトリエらしい性急なナンバー。新しい面を打ち出していきながらも、その上でしっかり需要にも応えていくというバランス感覚は3人になったヒトリエならではだと思います。

なかなか多彩な内容ゆえに、ともすればとっ散らかるんじゃないか?と思うくらいなのですが、そこでしっかりと『PHARMACY』という1枚のオリジナルアルバムとしての一貫性を持たせて纏め上げているのは、多くの曲に見られる映像を想起させるようなシノダさんの歌詞と、4人時代から培ってきたグルーブ、そして何より『ステレオジュブナイルだと思います。「最終回にしたくない」、「こんなん聴いてくれんのお前だけ」などのフレーズが含まれた歌詞は、受け止めきれないようなことが起きて深く傷ついたバンドとそれを取り巻く人たちにとって、薬局(PHARMACY)における「薬」と言えるほどのもので、まさに現在のヒトリエにとってのテーマソング。そういった曲であるため、じつは『PHARMACY』の核なのであると個人的に思っています。

喪失の感情を表現せざるを得ない状況下で生み出された『REAMP』を経て、ある程度フラットな気持ちで制作された今作がこれほどの良い内容になったことで、リリース当時きっとこれからもヒトリエは大丈夫なんだろうなと思ったことを覚えています。そして、wowakaさんが選んだ3人のスゴさというのも、あらためて。

様々な意味で、次作が楽しみだと思えるようなそういう1枚です。

 

favorite→『Flashback, Francesca』 / 『ステレオジュブナイル』 / 『Quit.』