米津玄師 『diorama』 (2012)

 

現在では日本を代表するミュージシャンのひとりとなった米津さんの1stフルアルバム。

ハチ名義での活動のなかで、『マトリョシカ』や『パンダヒーロー』、『結ンデ開イテ羅刹と骸』など多数のヒット曲を放ち不動の地位を築いた果てに「初音ミクの隠れ蓑にはなりたくない」(HMVでのインタビューより)との思いから制作されたのが今作で、アートワーク、歌唱、そして演奏も含めた楽曲制作(なんとすべて新曲!)を一手に手掛けているという、1stにして並々ならぬ労力が籠められた内容となっています。

こと楽曲面においては、良い意味でチープな音像のギターロックサウンドがハチ楽曲と地続きにありながらも、それらと比べてどこか地に足着いたような落ち着きがあるため、名義が違うことでの差別化の意識がしっかりあることを感じられる...とした上で、そのなかでも圧倒的に強く感じられるのが紡ぐメロディーの美しさ。これは『vivi』や『恋と病熱』といったセンチメンタルな楽曲にかぎったことではなく、ヒップホップ的なノリの『駄菓子屋商売』、オルタナティブな『Black Sheep』など、今作収録のありとあらゆる楽曲で感じられるものです。

こういった楽曲群にひとつのコンセプトを与えてアートワークともにコンパイルしているものだから最早デビューアルバムとは思えないほどの完成度だと感じるほどで本人もかなりの手ごたえを感じていたよう(それにしてもハタチそこそこでこれを作る才能たるや...)。

次作はバンドメンバーをレコーディングに招き、他者の手が入るなかでの制作を行うようになるため、今作はある意味で、ハチ時代からひとりきりで積み上げてきたものの集大成的な内容。それゆえに、のちの作品とは毛色がすこし違っているという感じもありますが、とはいえ普遍的なメロディーが鳴っていることで色褪せない良さがあると思っています。

 

favorite→『vivi』 / 『恋と病熱』 / 『乾涸びたバスひとつ』