B'z 『SURVIVE』 (1997)

 

ミリオンヒットシングル『Calling』を含む9枚目のオリジナルアルバム。

「暗黒期」、そしてスタジアムツアーを経て、これからのB'zとして打ち出していくべきロックサウンドとポップさのバランス、またロックバンドとしての感触を掴んだということを感じさせたのが前作『LOOSE』でしたが、今作『SURVIVE』ではそこから強烈にスケールアップ。前作のリリースツアーからはアリーナ規模でのライブも基本となってきている状況下でまさにそれに見合うようなサウンドが鳴らされているというアルバムが今作であると思います。

今作の内容としてはアルバム未収録の『Real Thing Shakes』(1996年リリースのシングル)の流れにあると思うのですが、それを示すのがずっしりと重たいビートと豪快なギターリフで引っ張っていくアレンジ。この時点でのB'zが志向しているのがスタジアムロック的な音像であることを強烈に強く感じられるという雰囲気です。前作『LOOSE』にもそういった側面はあったと思うのですがそれよりももっと強力な打ち出し方で、まさにロックの本場である海外志向が強い音であると思います。

ともすれば、非キャッチーであってもおかしくないほどのムードがある(アルバムのっけの『DEEP KISS』、シングル『FIREBALL』、『Liar! Liar!』あたりのバンドアンサンブルは特に強烈)のですが、そんななかで今作全体、またその収録曲のそれぞれをしっかりとB'zでしかないものにしているのが、強烈な歌謡性を持ったメロディーラインとやたらインパクトある表現が目立つ歌詞という、B'zのふたりならではの強み。演奏は海外ロックバンド的でありながらも日本人の琴線にしっかり響かせていく(こと、歌詞に関して、前作にも増してリスナーの人生と向き合っている瞬間が多いように思えます)という様子には、日本の商業的音楽シーンにおけるトップとして、そしてロックバンドとして、経験を積んだことで獲得できた『LOOSE』以降のバランス感覚がよく表れていると思います。

そういうわけで、今作はスケールの大きいロックサウンドと記名性高いメロディーと歌詞のバランス感覚というのが魅力であるために、打ち込み色が強い2曲目『スイマーよ!!』は大分浮いている(そうは言っても、曲順の妙で一気に聴けてしまう)というのはあるものの、そこを差し引いても、今作『SURVIVE』はB'z史において一、二を争うほど優れた内容なのではないでしょうか。B'zは、ロックサウンドを強めたアルバムとなるといつも振り切りすぎるところがあるのですが、今作に関してはちょうど絶妙なバランスで仕上がっていながら、それでいて徹頭徹尾一瞬も油断させないほどに収録曲それぞれの強度が根本的に高い、と全盛期感を感じさせまくってくれるもので、まさにロックバンド・B'zだからこそ生み出せた作品だと感じます(一般男性ではカラオケで歌いようもないほどキーが高く、そういった役割からは明確に降りたことを感じさせるというところも含め)。

アメリカンなアートワークが内容にハマっていることも含めて、もうひとくちに最高にカッコイイと言ってしまいたい、そんなアルバムであると思います。

 

favorite→『DEEP KISS』 / 『Liar! Liar!』 / 『Calling』

PENGUIN RESEARCH 『WILL』 (2016)

 

デビューシングル『ジョーカーに宜しく』を収録した1stミニアルバム。

2015年に結成されたのがこのPENGUIN RESEARCH(以下、ペンギン)なのですが、アイドルやアニソンシーンを中心に作家として活躍していた堀江昌太がソングライターということで、今作はそういったシーンとも共鳴するようなポップさがあらわれたような内容となっています。

そして、そんな今作において、もっとも特筆すべき点はボカロP・kemuの『敗北の少年』がカバーされているということと、その『敗北の少年』の歌詞の世界観に連なるような歌詞がアルバム通して展開されていることです。堀江昌太=kemu(今作のリリース時点では明かされていなかったけれど)なので、まさに過去に色々あったことを踏まえてすべての歌詞が書かれているということがわかるのですが、これが後のペンギンにおける基本の作詞スタイルになるのでかなり早い段階でバンドのテーマが決定しているということが感じられるというところ。これはペンギンの強みにそのまま繋がるのですが、たしかにこれは堀江さんにしか書けないし堀江さんが書くからこそ説得力がでるものだと思います...。

次のアルバム以降は、技巧派メンバーを擁するバンドゆえの超絶ポテンシャルを生かして、速く激しく重く...という、メタリックな方向へとバンドのサウンドがどんどん進んでいくため、全編にわたってポップな風味が感じられるのは今作が最初で最後。ある意味で、初々しさすらあるようなミニアルバムです。

 

favorite→『SUPERCHARGER』 / 『世界最後の日に』

KEYTALK 『PARADISE』 (2017)

 

スターリングスター』、『MATSURI BAYASHI』、『HELLO WONDERLAND』、『Love me』、『ASTRO』といったシングル曲を収録した、2年弱ぶりの4thフルアルバム。

初の武道館公演、そしてフェスの大きなステージに向けて!という気概が内容に強く表れていたのが『HOT!』だったのですが、その狙いがしっかりハマったことでバンドの人気も大きく拡大していたなかでリリースされたのが今作『PARADISE』です。

今作の特徴はなんといっても、その大ボリューム。シングルやカップリングまで含んだ17もの楽曲を収録した上で、現時点でのバンドの可能性を試すかのように様々な角度からのアプローチで制作された楽曲が惜しみなく詰め込まれています

EDMを大胆に取り入れた『Summer Venus』(義勝作)、いつになくファンクテイストが強い『森羅万象』(武正作)、爆裂するようなショートチューン『HOROBIRO』(八木作)、リスナーの背中を押すようなまっすぐかつピュアなメッセージが籠められた『Oh!En!Ka!』......と、これ全部1枚のアルバムに収まってるの!?というくらいの感じなのですが、リリース後の横浜アリーナでのワンマンが決定していたこと、また前年末のCDJ16/17において初のメインステージでのアクトを行ったことなど、まさにKEYTALK最大の上がり調子と言えるなかで制作されたという状況を加味すると、バンドがこれからの規模感に見合うサウンドを模索していたということも感じられます

総じて、今後の活動につなげていくためのアルバムで、アルバム単位での纏まりはそんなにないというのが正直なところ。それゆえに、通しではあまり聴かないかなというところは実際あったりしますね...。

 

favorite→『ダウンロードディスコ』 / 『HELLO WONDERLAND』 / 『Love me』

ヒトリエ 『PHARMACY』 (2022)

 

『3分29秒』、『風、花』というアニメタイアップ曲を収録した6枚目のフルアルバム。

楽曲自体はこれまでのヒトリエとまったく違うものの、根底に流れるグルーブがどうしようもなくwowakaさんと積み上げてきたヒトリエのそれと地続きであることを感じさせるのが前作『REAMP』でしたが、それに続く今作はそこから一歩音楽性を発展させて3人体制のヒトリエの可能性を試すような作品となりました。

テクノライクなループ感とバンドの生々しいグルーブが同居した『Flashback, Francesca』、インパクトしかない超絶縦ノリロックチューン『ゲノゲノゲ』、バンド結成から10年の歴史のなかでももっともポップソング的な『風、花』......という立ち上がりからして、これまでのヒトリエではなかったような、振り切ったノリを持った楽曲たち

この、音楽的により自由になったということを強く感じさせる様子からは、『REAMP』のリリースツアー以降、この3人でなら何をやってもちゃんとヒトリエの音になるという手ごたえを掴んだんじゃないだろうか、ということと、3人になってからの活動も長くなってきたところで気負いすぎず制作に臨めたんじゃないだろうか、ということが、(あくまでも想像でしかないですが)伺えるというところ。ナマで演奏されるとき、一体どうなるんだろう?と感じるところまで含めて、非常に刺激的な内容です。

とはいえ、序盤にミディアムテンポの楽曲が多いのは事実。もう落ち着いてしまったのかななんてちょっと思ってしまうかもしれないというくらいなのですが、そこで期待を裏切らず炸裂するのが『Flight Simulator』と『3分29秒』という、まさにヒトリエらしい性急なナンバー。新しい面を打ち出していきながらも、その上でしっかり需要にも応えていくというバランス感覚は3人になったヒトリエならではだと思います。

なかなか多彩な内容ゆえに、ともすればとっ散らかるんじゃないか?と思うくらいなのですが、そこでしっかりと『PHARMACY』という1枚のオリジナルアルバムとしての一貫性を持たせて纏め上げているのは、多くの曲に見られる映像を想起させるようなシノダさんの歌詞と、4人時代から培ってきたグルーブ、そして何より『ステレオジュブナイルだと思います。「最終回にしたくない」、「こんなん聴いてくれんのお前だけ」などのフレーズが含まれた歌詞は、受け止めきれないようなことが起きて深く傷ついたバンドとそれを取り巻く人たちにとって、薬局(PHARMACY)における「薬」と言えるほどのもので、まさに現在のヒトリエにとってのテーマソング。そういった曲であるため、じつは『PHARMACY』の核なのであると個人的に思っています。

喪失の感情を表現せざるを得ない状況下で生み出された『REAMP』を経て、ある程度フラットな気持ちで制作された今作がこれほどの良い内容になったことで、リリース当時きっとこれからもヒトリエは大丈夫なんだろうなと思ったことを覚えています。そして、wowakaさんが選んだ3人のスゴさというのも、あらためて。

様々な意味で、次作が楽しみだと思えるようなそういう1枚です。

 

favorite→『Flashback, Francesca』 / 『ステレオジュブナイル』 / 『Quit.』

King Gnu 『CEREMONY』 (2020)

 

『白日』、『飛行艇』などのヒット曲や長らく音源化されていなかった『Teenager Forever』を収録した3rdフルアルバム。

多彩なアイデアから生まれた強力なポップソングたちを、バンドのたしかな演奏力と常田さんらしいインタールードで見事1枚のオリジナルアルバムとして纏め切ったのが前作『Sympa』でしたが、今作はそこから一歩進んだ上で、さらにスケールを拡大したようなサウンドとメロディーが特徴的なアルバムです。

とくにそのスケールの大きさと言うのは『どろん』と『飛行艇』、『壇上』なんかに顕著なのですが、この時点でKing Gnuはアリーナ以上の規模でのワンマンは行っていなかった(フェスにおいてはスタジアムに立つこともありましたが)という状況であったため、逆説的に、そういう場所を目指しているということが改めて実感できる内容

そういったいくつかの楽曲でのバンドアンサンブルの重量化・巨大化に加えて、アルバムタイトルの『CEREMONY』とそれを象徴するアートワーク(これがめちゃくちゃイイ)、そして『開会式』や『閉会式』と名付けられたインタールードが配置されていることで、今作とそのリリースツアー(自身初のアリーナツアー)こそがKing Gnuとしてのストーリーの本格的な始まりという意思が感じられるところです。

......ということで、バンドの歴史においてはかなりの重要作ではあるのですが、『白日』のヒット後にはじまった怒涛のタイアップ楽曲制作や2度にわたる全国ツアーとフェス出演、またメディア展開などに端を発した2019年の多忙すぎるスケジュール、極めつけのあまりに短い制作期間(なんと前作『Sympa』からたったの1年でのリリース!)がゆえ、『CEREMONY』という壮大かつ重厚なコンセプトに対してはちょっと仕上がりがあっさりしすぎてるきらいはあるような気がしています(アルバム自体がこの時点で求められていたKing Gnu的なものの最大公約数的である感じがすることとか、時間さえあればさらに洗練されてただろうなという曲がいくつかあることとか...)。

最後の最後にできたというロックバラード『壇上』がなかったらもっとあっさりしたものになっていたと思うので、時間の制約があるなかでギリギリまでアルバムをより良いものにしようとするバンドの姿勢には心から感服...。

そういうわけで、今作はこの時期のKing Gnuを取り巻く環境の忙しなさと、それでも目指す方向へ着実に歩を進めていく姿が結果的に収められた内容になっており、ある意味でドキュメンタリー的な空気も含んだ作品であると思います。一言に「良い」とか「名盤」とは言い難いところもあるのですが、とはいえ印象的なアルバムであることは間違いないです。

 

favorite→『Teenager Forever』 / 『飛行艇』 / 『壇上』

ネクライトーキー『MEMORIES』 (2019)

 

前作『ONE!』から9か月弱という速さでリリースされた1stミニアルバム。

今作は、バンドのメインソングライターである朝日さんが、石風呂名義で発表していたボカロ曲のセルフカバーを1枚にコンパイルしたという内容です。

これらの楽曲は2017年のバンド結成以降ライブでも演奏され続けていたものばかりということで、ライブで鍛え上げられてきた熱気そのままに録音されているというのが如実にわかるほどに勢いあふれているのですが、この様子にはネクライトーキーとしてのグルーブがすでに形になっていることや、石風呂楽曲がライブという場において現在進行形のものになったということが感じられて、(チープな言い方ながら)胸が熱くなります。

そして、こういった内容のアルバムをこのタイミングで出したことにより、ネクライトーキーはコンテンポラリーな生活(以下、コンポラ)よりも石風呂の延長線上にあるということもわかり、ある意味でこの時点でのバンドが向かう方向がひとつ改めて指し示されているようにも感じなくもなかったり。スリーピースロックバンドという制約があるがゆえに研ぎ澄まされたサウンドを持つコンポラに対しての、自由度が高くてキャッチーなネクライトーキー、また『ティーンエイジ・"ネクラ"ポップ』の先にある"ネクラ"イトーキーと言いますか。

そういうわけで、セルフカバー盤でありながらもちゃんとネクライトーキーでしかない音が鳴っているということで、素直にスッと入ってくるような、そんな仕上がりのミニアルバムになっていると思います。

アートワークと気持ちの入ったボーカリゼーションからは、もっさの石風呂愛(元々ファンだった)も強く感じられてナイス。

 

favorite→『音楽が嫌いな女の子』 / 『夕暮れ先生』 / 『ティーンエイジ・ネクラポップ